うちのオカンの話です
新婚当時のオカン。僕にとってはそれ自体が既にホラーですが、話を続けます。その日オカンは家事に追われてたそうです
ある県下のカンセーな住宅街。昼下がりの午後。無機質にインターホンが鳴りました
ドア越しに確かめるとそこに男が立っていて、用件を聞くとどうやらセールスらしい。オカンは帰ってもらおうとしましたが、話だけでもと言って聞かない。仕方ないから玄関に招き入れ、聞くことにしたそうです
で、玄関先で話をしはじめてすぐ、二階にいた今は亡き親父が「誰か来たのか?」と声をかけます
するとそのセールスマン、あれほど押しが強かったくせに急によそよそしくなり帰っていったのだそうです
そして数日後、オカンが家で、今度はひとりでいるとまたもやインターホン
そこには刑事を名乗るふたりの男性
彼らは一枚の写真を取りだし、この男に見覚えはないか?と聞きます
それは確かにあのセールスマン。オカンは「見ました」と答えます
驚いたのは刑事のほうで、慌てふためいて家にずかずか上がり込んできて「話を聞かせてほしい」と
なんとその男は殺人犯でした
何日か前同じ町内で、旦那が留守の家に狙いをつけて上がり込み、主婦を刺し殺して金品を強奪した事件が発生したというのです
そしていまだに犯人は捕まってないと
オカンは震え上がりましたが、そこでは何事もなく終わります
続きはまだあって、その後波瀾万丈の波に乗ったオカンは愛媛へと流れ、女手ひとつで僕と姉貴を育てるわけですが
愛媛で平和にパン会社の事務職にいそしんでると、あのときの刑事がはるばるオカンを訪ねてきます
事件からすでに5年以上経過しています
わざわざ何かと思ったら、犯人がようやく捕まったと。いちおう写真を見て確かめてくれという申し出だったそうです
他県からわざわざ足を運んでもらってるわけで当然協力し、写真を見たそうですが、さすがに記憶もうすらぼやけていて確信を持って答えられません
しかし犯人の口から語られた内容がオカンのそれと一致。犯人は被害者の家にいくまえにもう一軒入ったがそこでは上手くいかなかったと言ったそうです
それがオカンです
つまりは、オカンと話したときの犯人は家を物色していたのです。オカンは物色されていたのです
もしあのとき親父が家にいなければ
二階から声をかけなければ
オカンは殺されていたかもしれません
そして何より恐ろしいのは、僕はこの話をオカンから50回近く聞かされてるという事実です
最初の何回かは勿論そいつはすごい、怖い、という反応を示せましたが、それ以降は、その話を聞いて僕にどうしろというのだろう?というゾーンに入ってきました
「あのとき刺されていたら、あんたらここにおらんのやで」
それはそうなのでしょうが、だとしたら親父のおかげであって、言われるがまま玄関を開いたオカンには「なんしてくれてんねん」と言いたい気分になります
年のわりには元気なオカン。これからも聞かせられることでしょう
みなさん、インターホンには気を付けましょう
完